
「プロジェクトT」は、高砂電気工業とともに共同研究に取り組んでいただいている方たちを紹介し、ユニークなプロジェクト内容やその成果、日々努力していること、苦労していることなどをご紹介していきます。
2018年、東京大学 工学系研究科・化学システム工学専攻 酒井・西川研究室は、ある問題に直面していた。彼らが取り組んでいたのは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が推進する人体模倣プロジェクトの一環で、ヒトの腸内環境を再現するデバイス「腸管MPS (Microphysiological System)」の開発だった。創薬実験に使用するiPS細胞を培養するプレートを、よりヒトの体内環境に近づけるために、腸管内の血流と蠕動運動を再現したい、という課題を解決する方法を模索していたのだ。
新薬の開発期間短縮と開発コストの削減を目指す
一般に、新薬の開発には、10年以上の長い期間と、数百~1千億円ものコストがかかると言われている。実験環境で成果をあげた薬でも、人間の体内で同じように働くとは限らないため、有効性・安全性を証明するために、細胞実験、動物実験、治験といったいくつものステップが必要なのだ。人体模倣プロジェクトは、実験環境をできるだけヒトの体内環境に近づけることで、新薬の開発期間短縮と開発コストの削減を目指している。
研究開始当初、酒井・西川研究室では、実験用デバイスを手作りしたり、いくつかの製薬メーカーに試作の相談をしたりしていたという。しかし、量産される予定も無く、複雑な制御が必要な試作品製作に協力できる体制を持つ企業は見つからなかった。
そこで相談を受けたのが、微小流体制御と少量多品種・カスタマイズ生産に強みを持つ高砂電気工業だった。再生医療グループで、当時入社4年目だった朝日がデバイスの設計に取り組んだ。すでに社内で灌流デバイス(培養液を流し続ける培養装置)が開発されていたため、血流の再現については容易だったが、問題は蠕動運動の再現だった。東大からのリクエストは、心拍と同等のサイクルで腸壁にみたてた培養膜をゆっくりと動かすこと。しかも、装置全体は既製のインキュベーターに収まるサイズに仕上げなくてはならない。

実験室で「腸管MPS」を組み立てる朝日
バルブを使ってプレート内に空気を送り、空気圧で培養膜を動かすというアイデアが浮かんでいたが、社内には要求に合う速度で動作するバルブがなかった。朝日は、試行錯誤の末、小型ながら流量の調整が可能なマイクロニードルバルブと定量ポンプを組み合わせ、培養膜をリクエスト通りのスピードで動かすことに成功したのだ。「腸管MPS」は2019年1月に完成した。

完成した「腸管MPS」

さらにその先の夢へ
今回お話を聞かせていただいた酒井・西川研究室 特任研究員の稲村様は、このプロジェクトについて「機械を使ったデバイスと生体培養を組み合わせることで、今までできなかった実験が可能になってきている。高砂さんは、細かいリクエストにも応じてくれるので、とても助かっている。」とお話されていた。「今後、腸内細菌なども入れることができれば、より腸内環境に近づけられる可能性がある。人工腸と呼べるものができるかも。夢は広がりますね。」とも。
酒井・西川研究室では、現在、肝細胞の灌流培養(培養液が流れ続ける環境での培養)にも取り組んでいる。将来的には、腸と肝臓の循環系やリンパ液の循環も再現し、さらに人体に近い環境で新薬候補の開発に貢献することを目指している。

このプロジェクトによって、今は治療が難しいとされている難病治療の新薬が、より早く、安価に、薬を必要とする人々へ届けられることが期待されている。高砂電気が培ってきた技術力で、プロジェクトに貢献できていることを、一社員としてとても嬉しく思った。
酒井・西川研究室の皆様、お忙しい中、お話を聞かせていただき本当にありがとうございました!

酒井・西川研究室メンバー (2019.12.撮影)
記事内で紹介した製品
■ マイクロ3D灌流培養システム【開発中】
■ マイクロニードルバルブ
■ 6チャンネルポンプ
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